筋膜の学習

筋膜の生理学と機能障害について〜筋膜治療の理解のための基礎知識〜

筋膜に関する研究はここ40年で急速に発展し,それまでの医学でわからなかったことが解明しつつある.今回は,種々の筋膜の中でも特に筋骨格系の機能障害に関連することが多い深筋膜を中心に,その生理学について説明します.

筋膜と感覚受容器

1.筋膜に包まれる感覚受容器

 筋膜には,浅筋膜・深筋膜(腱膜筋膜・筋外膜)・筋周膜や筋内膜が存在する.それらの中の深筋膜は筋周膜と筋内膜に密接に連結している.

深筋膜の厚さは約1mmの薄い膜上の組織であり,多層構造となっている.この薄い膜には筋実質よりも豊富な感覚受容器が含まれていることが近年の様々な研究で報告されている.

主に深筋膜に含まれる固有受容器は以下の表にある.


筋紡錘は筋の長さを感知する受容器であり,筋が伸張することで求心性のインパルスを脊髄前角のαニューロンに送る.ゴルジ腱器官は主に筋腱移行部に存在し,腱にかかる張力を感知して,Ⅰb求心性線維を通り,介在ニューロンを経由して,当該筋のα運動ニューロンへ抑制性の情報を伝達する.
パチニ小体は圧痛覚受容器,自由神経終末は痛覚受容器,ルフィニ小体は温痛覚受容器として,知られているが,筋や膜組織における張力感受性も有している.

2筋膜と関連する筋紡錘

 筋紡錘は,錘外筋線維と並列に存在する固有受容器であり,一つの筋に対し数十個の筋紡錘が存在する.筋紡錘はγ運動ニューロンの発火によって収縮する特殊な錘内筋線維と,それを包む被膜から成り立っている.筋紡錘の感覚神経の終末は,主に赤道部に分布しており,錘内筋線維を螺旋状もしくは環状にとりまく環螺旋終末存在する.

筋紡錘の役割は主に筋の長さを感知することであるため,筋が不随意に伸長した際に,興奮性の情報を当該筋のα運動ニューロンに送る.また,ガンマ環(ガンマループ)と呼ばれる生理学的機序にも筋紡錘は関与する.

これらのことから筋紡錘は筋周膜に囲まれるように位置し,その被膜は筋内膜・筋周膜・筋外膜へと連続し連結している.そのような構造から,深筋膜の機能障害が筋紡錘の機能を抑制し,その働きを干渉する可能性を示唆している.つまり,層構造となる筋膜の間に存在するヒアルロン酸の凝集により,その筋膜の滑走性が失い,深筋膜の活動性の低下を助長して,筋外膜を介し筋周膜・筋内膜へとその運動性の低下が波及し,筋紡錘周囲の被膜の硬化を引き起こす.その結果,錘内筋線維の適切な収縮や弛緩や環螺旋終末の正常な伸張(感知)が阻害され,正常な筋収縮の機序や受容器としての役割が果たせなくなる可能性がある.

 

筋膜の滑走システムとヒアルロン酸

1.筋膜の構造と滑走システム

 深筋膜はコラーゲン線維(膠原線維)とエラスチン線維(弾性線維),及び細胞外マトリックス(細胞外基質)からなる.コラーゲン線維は波状構造であり,膜に強度と形態を与える役割を担っている.一方エラスチン線維はゴム線維のような構造となり,膜の弾性と形状記憶能に寄与している.コラーゲン繊維とエラスチン線維は網目のように配置され,その間隙に細胞外基質が存在する

通常,細胞外基質は水溶性であり,その主成分はヒアルロン酸である.深筋膜は通常2〜3層の多層構造を形成し,更に各層間には疎性結合組織が存在する.この疎性結合組織も主成分はヒアルロン酸であり,その存在により筋膜間の潤滑油となり各筋膜層の滑走を可能にしている.

ヒアルロン酸は外傷や不動により,菌や軟部組織系のヒアルロン酸濃度を上昇させる.そして,その濃度の上昇に伴う凝集化は深筋膜の細胞外基質を水溶性から粘性へと変化させる.その結果,筋膜間の滑走を阻害する.

また,身体活動による影響(高負荷の筋運動)により乳酸の生成が起こり,筋中のpH濃度を低下(酸化する)する事が明らかになっており,その体内のph濃度の低下により,ヒアルロン酸の粘性が増強する.

これらの点を踏まえると,過用や不動により,ヒアルロン酸の粘性が増加することで,深筋膜の滑走システムの障害が起こる事が示唆される.そして,滑走システムの障害は,前述した筋膜内に豊富に含有される固有受容器の感受性を亢進または減弱させるような機能障害を引き起こし,周囲に疼痛や感覚異常のような症状を引き起こす.

 

Kazu
この記事を書いた人

《資格》 Advanced diploma of Physical Therapist (理学療法士:高度専門士) Certificated physical therapist in Orthopa ...

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